2010-2012年、MIT Sloan MBAプログラムに留学していました。アカデミックな話題から、ボストン生活、趣味まで、日々感じることを書いています。

January 25, 2011

起業という別のモチベーション

MITは、アントレプレナーシップに強みがあると言われています。いくつかのモチベーションから、自分もそうした科目を多めに取り、課外活動にも参加しています。

ひとつは、これまでIT企業で非技術者としてキャリア構築してきて、事業創造や事業開発に携わった経験を更に伸ばそうと考えているためです。「技術ベースで」「企業内で」事業を立ち上げ伸ばしていくためのアントレプレナーシップ(あるいはイントラプレナーシップ)は、例えば工学部の学生との共同プロジェクトなどで学ぶことができます。自己のスキルのひとつとして、自分はエンジニアの言葉を翻訳し、ビジネスの視点から捉えて協働できることが挙げられると考えています。このスキルを更に伸ばす経験を、理論および実践の両輪を回して積めるのは大きなメリットだと思います。

もうひとつは、ロングタームで考えた際に、いつか自分で事業をやりたいという想いが漠然とあるためです。その実現手段としてまったくのさらでやるのか、それとも既存企業のスピンアウトのような形態をとるのか、それは実現手段なのでまだはっきりしません。そもそもどんなビジネスアイディアがあるのか、いくつか思いつくものはあるものの、強い信念と成功の確信を持って取り組めるようなテーマは未だ出て来ていません。アイディアの探し方も、柔らかいながらもコツやフレームワークがあるので、今はそれを実際に自分で使ってみながら試行錯誤している最中です。

アントレプレナーシップに興味を持っているのはなぜかと考えてみると、そもそも、人に指図をされるのがとにかく嫌いなのです。これは過去のサラリーマン生活を通じて身に沁みて感じたことでした。起業家になれば、クライアントや株主に指図されることはあっても、少なくとも上司から指図を受けることはない。これはすごいことだ。そういうわけで、私のアントレ志向はキャリア・アスピレーションと言うよりは、むしろ性格特性から来ているのでした。

一方で、起業家としての行き方を選択するというのは、そう甘っちょろいものではないことも認識しなければなりません。こちらでは授業で教授が問うのも、実際の起業家が自己の体験を語ってくれる時に質問されるのも、「あなたは本当に起業家になんて馬鹿なものになりたいの?」ということです。世の中には、もっと楽にもっと大金を稼ぐ手段がたくさんある。それなのに、止むに止まれぬ想いであなたを起業に駆り立てるものはいったい何か。そうした問いに対し、果たして自分が本当に起業家になりたいか、というとそこまでの覚悟はできていないと認めざるをえません。自己裁量で仕事をしたいだの、イノベーティブな生き方がしたいだの、そんな戯言ではない世界が待っていることを思うと、どうしてもひるんでしまいます。ままごとではないのだ。

実際の話、何かを一から作り上げるよりも、既存のものを育てていくほうが数十倍も数百倍も容易だし、効率もよい。そして人生は仕事だけではない。起業するということは、起業家という生き方を選択することであり、(少なくとも事業を軌道に乗せるまでの数年間は)生活の充実とかバランスとかとは無縁の、ビジネスの世界に骨の髄まで漬かるということを意味する。始業時間も終業時間もない。フリータイムもないし休日もない。ビジネスのことが頭から離れない。そんな人生を私はあなたにお勧めしない、と彼らは言うのです。相当に重い言葉ですね。

しかしながら、やはりアントレプレナーシップについては学びを深めたいです。どうやって物事を一から始めるか、どうやって人を説得し、巻き込み、大きくしていくか。それについて学ぶことはきっと将来どんなビジネスをやるにおいても、あるいは仕事以外の人生においても意義があると思っています。

キャリア選択のことを考えても、それはきっと一段大きな視点を与えてくれるはずです。すなわち、どんな業界で働きたいか、どの会社がよいかと考えることは、一見すると可能性を網羅的に見ているようでありながら、実はどこでサラリーマンをやるか悩んでいる、というだけの違いでしかありません。自分がそれを選択するかどうかは別として、少なくとも起業という選択肢が世の中にはあると現実感を持って知ることによって、例えば自分が検討しているあのキャリアとこのキャリアでは、その後の人生が180度変わる、というほど大きなものではなく、誤差の範囲だな、と思えるかもしれません。

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