2010-2012年、MIT Sloan MBAプログラムに留学していました。アカデミックな話題から、ボストン生活、趣味まで、日々感じることを書いています。

August 26, 2013

訓練場としてのMBA

MBAとは何をするところか。前回のポストでは、本では学べない要素として、主に日本人的な側面からの効果について書いたが、今回は、恐らく全ての人種にとって当てはまる、プログラムが参加者に提供する機会という観点で書いてみる。

1. 意思決定の訓練場
MBAのクラスでは、とにかくたくさんの意思決定をさせられる。時間と情報が限られている中で、何か答えを出す。その訓練をひたすらさせられる。レクチャー型の授業も、結局は意思決定のサポートのために行われる。つまり、セオリーを学ぶのは、正解があるものには早くたどりつく力を得るためである。そして、ケースディスカッションや、ケースを使ったプレゼンテーションでは、実際に自分の意思決定を披露し、教授やクラスメイトからのフィードバックで議論を積み上げていく。MBAは、そうした意思決定の訓練機会を提供する。

2. リーダーシップの訓練場
MBAは、特に授業外でリーダーシップポジションを山ほど提供する、そこでヒエラルキーなしで物事を動かしていく経験をする。クラブのリーダーとか、カンファレンスやスタディツアーの企画とか、生徒会とか、寄付金のファンドレイズとか。たとえば、アメリカの全寮制の中学や高校で、アメリカ人と共に生活して、アメリカ人を仕切った経験がないと、アメリカの組織を中枢レベルで引っ張るのは難しい、とも言われる。別にアメリカに限らず、それを身に着ける恐らく最後のチャンス。これも学校という形態が提供する機会のひとつ。

3. 視野と価値観を広げる訓練場
MBAでの生活は、国籍・キャリアバックグラウンド・文化が異なる仲間との協働の日々。学校がダイバーシティを重視する意味は、いろんな奴を同じ箱に入れといたら、それだけで何か起きるだろう、という考え。そこで、ストレスをかけて、ぶつかりながら、異なるものをそのまま受け入れる力、人間の度量を増す訓練を自然と繰り返す。その経験が、そこで学ぶ人たちの将来のフィールドをグローブにする。

改めて自分の経験を振り返ると、MBAプログラムでは、グローバルリーダーを本気で作ろうと思っているんだなと感じる。決して就職予備校ではないし、ましてや語学学校ではない。これは特に卒業して1年経って、ああ自分はあの時訓練をしていたのだなと感じる。これからMBAを志す人でも、そうした視点を持つと目的がクリアになりやすいと思う。

August 19, 2013

MBAは本で学べるか

MBAの知識はすべて本で学べるという人に。

たしかにMBAの知識は本で学べるかもしれない。Sloanでは、例えばノーベル賞学者の講義を聞くと、やはりただ本を読むのとは違うと感じたが、これって野球はスタジアムに行かずともテレビで見れる、とか、音楽はライブに行かなくともCDで聴けるとか、まあそんな議論と一緒です。スタジアムでの野球観戦経験を本気でテレビ中継の視聴経験と並べる人はそんなにいないと思うけど、MBAに対しては厳しい目を向ける人もいる。全部本で学べるから行く意味ない、その知識も実業じゃ役に立たない、という具合。

しかし、知識を得るための環境がリッチであるのもさることながら、自分の経験では、MBAで学ぶことは実は知識ではない。それではいったい何を得るのか。このへんはあまり一般化されている訳ではないので、場合によってはすべての人(特にアメリカ人)に当てはまるものではないが、いわゆる私のような日本人には少なからず言えることだと思う。

1. ハートの強さ
 非アメリカ人にとって、米国MBAでの2年間はアウェイで戦う時間になる。この経験は、とても人を成長させると思う。一言でいうと、サバイブする力。まず第一に、とても恥をかく機会が多い。なんならコミュニケーションの授業で即興でプレゼンテーションをしろと言われただけでも、全身から汗が吹き出し、もちろんたどたどしい言葉で散々なプレゼンになる。プロジェクトでコールドコールで地元企業を訪問してこい、と言って突き出されても、「We are MIT students and...」なんて言っているうちにお呼びじゃないと言われて帰されてしまう。そしてこれも何度か書いていることだが、バーに行ってもなかなか相手にされず、うまく輪に入れない。言葉は本当に習得が難しいが、それにめげず、少なくとも自信を持った振る舞いをしていないとやっていけない。これを乗り越えて大勢の前でプレゼンをし、バーでも逃げられず、また学校のプロジェクトでもふつうに声がかかるようになったのは、大きな自信になった。そしてこの先どんなところに行っても、何とかしてやろう、何とかなるだろう、という気持ちができる。ということで、ハートが強くなる。

2. スタンスを取る力
 授業では、ケースを使ったディスカッションを多く行う。そこでは、自分がケースの主人公(社長や事業責任者)になったとして、あるビジネス上の決断を迫られる。どんなに情報が足りなくとも、どんなに前提知識がなくとも、「俺はこっちにする」とスタンスを取って、そこに理由をつけなくてはならない。どちらにも決めない評論家的な発言は評価されない。言ったら教授やクラスメイトから叩かれるかもしれないが、それでもYesかNoかを自分で決め、説明することが重要。人は、組織は、論理によって成功の確率が最も高いものを選択し、何を選ぶのか目に見える形で、意思決定しなければならない。そこに妥協はない。で、それだけ真剣に選んだオプションだが、実際には絶対的に正しい選択なんてない。どちらでも成功する場合もあるだろうし、どちらを選んでも結局ダメということもあるだろう。肝心なのは、正しい選択をすることもさることながら、その選択を成功にするためのその後の努力も同じくらい大切ということも実は同時に学んだ。これは疑似とはいえ自分で決断を繰り返したからこそ腹落ちしてきた感覚かもしれない。ということで、周囲にスタンスを取り自分で意思決定する力が増す。

3. 夢の大きさ
 スタートアップや、はやりのソーシャルアントレプレナーシップなど、名前は何でもいいが、世界はこんなに広いんだ、世の中には社会にインパクトを与えるためにこんなやり方があるんだ、という感覚を腹に落とすことができる。学校には文字どおり業界の第一線で活躍しているリーダーが多数訪れる。で、トップを見せつけられてリミッターが振り切れて思考の枠がストレッチする。突き抜けてるアントレからP&Gの社長まで、その範囲は広い。CEO Perspectivesという授業では、文字通り毎週どこかのCEOが来てスピーチをする。P&Gの目標は地球上の全ての人に自社商品を届けることだとか、NY Timesがいかに紙からインターネットに舵を切って世界をターゲット市場にしたとか、いまや中国からも巨大な売上を上げるNBAがどう世界戦略を立てているかとか。そしてそれをどう夢として伝えているか、リーダーのコミュニケーションスタイルも勉強になった。そして、海外での実プロジェクトにより、異業種、異言語、異文化でも、自分にも「もしかしたら」できるのではないか、という可能性を感じることができる。この実体験に基づいた自信が夢に現実味を与えてくれる。ということで、夢のサイズが大きくなる。
 

知識だけならば本でよい、が、それでも毎年日本国外のフルタイムMBAに行く人はいる。やはり百聞は一見にしかずだし、更にただ見るのと実際にやるのでは全然違う。MBAに知識を取得しに来ようと思うと費用対効果がよくないかもしれないが、体を使って得られる知識以外のソフトスキルに、実は大きな価値があると思う。

August 11, 2013

うまい棒の味の違い

ドイツの日曜は教会の鐘が鳴り、のんびりした一日。法律で決められていて店が営業できないので(飲食店は営業可)、何もすることがない。やっぱり生活と宗教が不可分なんだろうな。

さて、仕事の話。やりたいことをやるのか、向いてることをやるのか、それはこれまでの社会人人生でも何度も考えたことで、今日も考えることです。マリア・カラスは、自分は自分の才能という主人のために絶対奉仕しなくてはならない、と言って歌に人生を捧げました。だから自分も人よりできること(向いてること)を、と言ったら後輩に「やりたいことより向いてることやるなんてナンセンス」とダメ出しされました。そういえば新庄は、小さい頃スポーツ万能で、何やっても一番だったけど、野球は例外で、一番思い通りいかなかったから野球を選んだと言ってた。

つまり何が言いたいかと言うと、何を選ぶかはその人の自由で、正しい答えはない、ということです。でも、とにかく、自分のことは自分で決める権利がある。最近特に思うけど、それってなかなか素敵なことです。しかもどっち選んだって大して変わらないことも多いし。なんだ、自分はうまい棒のサラダ味か明太味かの選択で悩んでたのか、世の中にはアイスもチョコレートもあるし、なんなら貯金とか、お賽銭とか、募金とか、そのオプションの幅に比べれば、所詮うまい棒なんてどっちでも同じだよ、とかそんな話。更に、その選択肢の幅に気づくのは案外しばらく経って振り返ったころだったりするし。まあでも、目の前の決断は、なんにせよ自分の腹に訊くしかない。

ということで、今自分にも、さっそくこれからの仕事の小さな決断が来ているのですが、それをいろいろこねくり回した挙句、あと数日で納得のいく決断をしようと思います。

August 1, 2013

ドイツへ赴任

このたび、勤務先の海外子会社に数年出向することになりました。その会社自体が各国に拠点を持っていて、グローバルに事業を行っていますが、ひとまずはドイツに行きます。役割はCFOの直下に就いて、戦略、財務、および各種インテグレーションをする模様です。とはいえいまいち仕事内容も多岐にわたりすぎるので、最初は新興市場にちらばっている孫会社の整理と、新規M&Aで成長戦略をつくって、案件を進めるところを任される予定。

卒業後一年働いて、だいぶ環境にも慣れてきたところで、良いタイミングなのかもしれない。現状の延長では得られない経験とは何か、今の自分に欠けているものは何か、という観点で考えてみると、自分としては、東京HQでの戦略検討・管理業務よりは、実業で汗をかく部分が欠けており、それは現場に行って得られる種類のものだろうと思っていました。もう一つは、やはり伝統的日系企業の性質として、責任権限がこの年齢では限定的であり、それが成長を遅らせていることは大きなリスクと感じていました。

なので、現時点である程度の裁量を持ち、グローバルに実業経験を積めることは大きな利点と感じています。日常的に日本以外のマネジメント層とコミュニケーションを取り、プロジェクトベースで物事を回していく経験を重ねられる環境は、恵まれたものだと思います。ここで成功体験を積み重ねておくことは、将来の機会を広げてくれるものだろうと期待しています。先日新しいアサインメントの先行業務として、地域CEOたちと会議をする中でも、まさに活きた経営課題を扱い、その中で成長する可能性を見いだすことができました。

出張で見たところ、ボストンよりは少し小さいけれど、思ったよりもなんでも揃っていて普通に生活できそうです。その後は別の国のオフィスに二重出向する可能性があり、なんだかまだ足場が定まりませんが、新しい仕事になることだけは間違いなく、何が起きるか楽しみです。