2010-2012年、MIT Sloan MBAプログラムに留学していました。アカデミックな話題から、ボストン生活、趣味まで、日々感じることを書いています。

December 29, 2011

意思決定の際の胆力 (Essay 3)

特にEssay 3については悩まれる方が多いようで、今日はそれについて私の考えを書きます。

Essay 3: Please describe a time when you had to make a decision without having all the information you needed.

これは基本的には、差し迫った状況があって、やるかやらないか、あるいはどちらに行くか十分な情報がないけれど、それでも決めなければならない、という胆力に関する質問と思います。

この胆力というのはリーダーシップの重要な要素のひとつで、いかに早く決断し、それを周りに信じさせ、成功させられるか、その素質を持っているかどうかをアドミッションは知りたがっています。決断力のないリーダーはだめです。決断力のない男もだめです(苦笑)。

例えば書き方の例としては、次のようなものが考えられます。2つの道がある。ひとつは比較的固い道で、周りから信頼も得ているし、一定程度の成功も保証されている。もう一方の道は、魅力はあるが極めてリスクが高く、まったく成功しない可能性もある。本当はその成功確度をもう少し情報を集めて見極めてから決断したいが、決定期限を3日後に控えており、それまでに十分な情報は集められない。なので限定的な情報で決断した、という具合です。

スピードを重視する今日のビジネスにおいては、時間的制約により十分な情報を得ることができないケースは頻繁にあるし、あるいはそもそもどうやっても手に入らない情報もあります。企業活動においては、そうした不完全な情報環境の中で意思決定をしなければならない局面が多くあります。

そして個人レベルで考えてみた際には、誰にでも、これまである種の決断の際に、情報が不足したまま自分でエイヤ、と決めなければいけなかった点がたくさんあると想像します。そのうちのひとつにフォーカスし、いかに自分の中で悩み、確度を高めるために行動し、最後に腹を据えて決断したか、そのプロセスについて細かく描写するといいと思います。

そうした意思決定の場においては、自分の判断の拠り所となる軸があるはずです。GoogleであったらDo no evilとか、そういうことです。そうした自分なりの芯について、エッセイでは丁寧に書いてください。それはどうしても成し遂げたいアスピレーションであったり、大切な人に対する信頼であったり、社会・市場が向かうべき方向性への確信であったり、絶対に譲れない倫理であったり、人によってあるいは状況によっても異なるだろうとは思うのですが、結局のところ「何を大切にしているか」、思考のプロセスと意思決定の拠り所を自分の中で明らかにすることはとても大切なことです。そしてそれこそが、将来の意思決定の確度を高めるだろうと、アドミッションに確信させることにもつながります。

意思決定においては、もちろんそうした自分の判断の拠り所となる軸だけでなく、その裏側で働き成功の確度を高める理性知性がうまく機能している必要があります。たいていの場合、いきなり腹を括るのではなく、まずは手間を惜しまず創意工夫により情報を集めるための努力をする、手に入らないものでも論理を用いて推測をする。その上で直感や腹落ち感、自分の中での納得感というものにより意思決定する、というのが本当のところだと思います。したがって、エッセイでは、①足りない情報を集めるための努力と、②それでも足りないものをジャンプさせるための情報解釈力・想像力、③そして最後に腹をくくるための胆力、この3つがエッセイの中に書かれているように心がけてください。

December 28, 2011

人を巻き込む力 (Essay 2)

続いてエッセイ2について。

Essay 2: Please describe a time when you convinced an individual or group to accept one of your ideas.

どんなに高尚なビジョンを掲げても、実際に人が付いてこなかったら意味がありません。あなたはどうやって組織をひとつの方向にAlignさせ、成果を上げることができますか、という問いについて、Implementationの中でもHuman Interactionにフォーカスして書きます。

これは恐らく3つのエッセイの中では比較的書きやすいと思います。というのは、人との衝突に対して「何を感じ、考え、行動したか」というのはストレートに表現しやすいためです。

文字にしていくに当たっては、あなたがConvinceした個人あるいはグループを、できるだけビビッドに描写するよう心がけてください。どんな利益を代表している人(たち)なのか、争点はなんだったか、だけでなく、個人レベルではどんな性格か、本音と建前に何か違いがあったか、その人(たち)とのやりとりで、どの地点がブレークスルーのポイントだったか。

一方で、自分自身について正直に描写することも大切です。何を最初考えていたか、反対にあってどう感じたか、どう咀嚼し行動したか、そしてコミュニケーションの過程で相手側から学んだことにはどんなことがあったか。Convinceしたという事実は、必ずしも100%自分の考えを納得させたということが最大の成果ではありません。複数のEntityがお互いに触れ合う中で、どんなポジティブな化学反応が起きたか、それによってどんな力が組織内に生まれたか、について素直に書いてください。Human Interactionは、お互いに学習し高め合うプロセスであるはずです。

December 27, 2011

説得力のある未来を描く力 (Essay 1)

本日はまずエッセイ1について。

Essay 1: Please describe a time when you went beyond what was defined, expected, established, or popular.

自分の経験の中で、周囲の想定を上回ったものについて書くということで、これはどちらかというとAchievementについて書くように見えます。もちろんその成果がポジティブであることは重要なのですが、そのインパクトの大きさだけで例を選ばないよう、またエッセイを展開しないよう気をつけてください。というのは、ほかのエッセイでも共通ですが、ここで問われているのは、あくまで「何を感じ、考え、どう行動したか」ということであるためです。

なぜ周囲の想定を上回ることができたのか、どうやってNormを超えたか、それはどのようにVisionを作り行動したか、ということによって書くことができます。現状からVisionを描く際に、いかに直感を信じ、規範に捉われず「そもそも~」とゼロベースに立ち返って自分の頭で考え、目指すべき未来を描くことができたか、そのプロセスについて丹念に振り返り書いて下さい。

人によっては、これを書いていく過程でEssay 2と同じような内容のことを書いてしまう場合があるかもしれません。たしかに最後にResult、この場合はVisionに基づき行動した結果まで書くためどうしても重複してしまいがちですが、そこは注意です。以前も書きましたが、大きく分けるとEssay 1はVisioningについて、Essay 2はImplementationについて問うています。したがって、これをやるぞ、というVisionの形成段階に成功の肝があった事例をEssay 1に、目指すべき方向は見えていたけれど実行段階で強烈に反発を受け、その克服に肝があった事例をEssay 2に書くとよいと思います。Essay 2では、必ずしも自分でVisionを作っている必要はなく組織目標をブレイクダウンし実行したと言ってもよいのですが、Essay 1では、自分がNormを超えたVisionを作り出している必要があるというのがもっとも大きく異なる点です。

December 26, 2011

MIT Sloanのエッセイ

Sloanのエッセイについて、質問をよく頂くのでそれについて。

MIT Sloanは例年3つのエッセイを課しています(Cover Letterを除く)。多少設問の書き方は変わったりするものの、大枠は変わりません。2011年アドミッションにおいては、以下の3つが出されています。
  • Essay 1: Please describe a time when you went beyond what was defined, expected, established, or popular. (500 words or fewer, limited to one page)
  • Essay 2: Please describe a time when you convinced an individual or group to accept one of your ideas. (500 words or fewer, limited to one page)
  • Essay 3: Please describe a time when you had to make a decision without having all the information you needed. (500 words or fewer, limited to one page)
  • In each of the essays please describe in detail what you thought, felt, said, and did.

このインストラクションにあるとおり、各エッセイで何を感じ、考え、どう行動したか、を具体的に書くよう求めてくることが特徴です。意思決定の拠り所となるような価値と、実際に行動を起こした経験から学んだこと、それを深いレベルで振り返り、うまく伝えられるとよいと思います。

これは全てリーダーシップの要素について問われていると考えてください。一言で言うとEssay 1は進むべき方向を描く力(Visioning)、Essay 2は周りをInvolveする力(Implementation)、そしてEssay 3はDecision Makeする力(Value)です。また、各エッセイでは、それぞれ違った能力を持っていると書いていくことが大切です。「何を感じ、考え、行動したか」について書いていくと、ともすると全てがImplementationに寄った記述になってしまうことがあります。そうした際には、そもそもどんな力について問われているのだっけ、と確認することで、Capabilityの重複感を避けることができると思います。

また、各エッセイはSTAR(Situation、Task、Action、Result)の様式に沿って書くことが求められています。この様式で書くことは、自分の過去の経験を振り返り、定着させることにつながるので、とても有意義な動作となるはずです。したがってその際に、この経験からのTake away(学び)は何か、まで抽出し、STARTとして書くようにしてください。最後に学びを普遍化することは自分にとっての経験の価値を格段に増します。またこれを体験したことによって、次に同様のことが起きた際にも成功の再現性がある、と読み手に確信させるため、アプリケーション上も有効です。

それぞれの設問にどう答えていくか、もちろん正解はありませんが、以降のポストで考え方のガイドラインを書いてみようと思います。

December 19, 2011

静かなボストン

試験が終わり、ぼちぼちクラスメイトがボストンを離れていきます。急に街が静かになったので、クリスマス休暇を前に、家でふと1年を振り返ってます。

1月にシリコンバレートレックに行ったのがもはや同じ年とは思えないほどいろいろやった1年間でした。思い返してもアメリカ人と二人きりのドライブはつらかった。しかしサンフランシスコの中華はうまかった。その後はまったくの無防備でヨセミテに行き、ナパとソノマで快飲し、送ったワインが家に届かないというおまけ付。

3月にはJapan Trekの予定だったのが、まさかの大地震でキャンセル。それは本当に残念でしたが、Stand with Japanでは志のある仲間と一緒によい仕事ができたことを心から誇りに思います。どうもありがとう。

春は少し足踏みした時期もありますが、6月からのインターンでは環境を大きく変え、よいストレッチの機会をえました。また貴重な出会いや再会も多くあり、充実した時間でした。

9月に学校に戻りネジを締め直す。Sloanのほかハーバードのケネディスクールでも授業を取り、世の中へのインパクトの与え方について考える引き出しを増やせた。イベント関連ではC-functionも成功できたし、Japan Mixerという持ち込み企画で日本の味をふるまえたのもよかったです。自分自身もまさかの変化があったしな、1年って不思議な感じ。とにもかくにも、みんなに本当に感謝です。

1月はG-labのプロジェクトでインドネシアへ。そして2月から、また最後のお祭りが始まります。

ということで、Merry Christmas & Happy New Year。

December 18, 2011

出願戦略について

セカンドラウンドのデッドラインが近づき、今年受験の方は時間との戦いの日々だと思います。今日は出願戦略について、個人的な見解を書きます。

まず、これはよく言われることですが、あまり多くの学校に出すのは効果的ではありません。下手な鉄砲数撃ちゃ、というのはMBA受験においては当てはまりません。気持ちが分散すると作業効率が落ちますし、実は単純に事務的に各校の出願書類をWebで打ち込んでいくだけでも(アップデート、エラーチェックを含め)相当な時間を要します。それよりも、ラウンドあたり最大4校くらいを目安に、とにかくエッセイをしっかり書き込んでいくほうがよほど合格可能性は高まると思います。ここでいうエッセイの書き込みとは、ネタがしっかり揃った後の学校向けカスタマイズを含みます。本当に強いエッセイを書き上げるためには、Why this school?だけでなく出願全体のパッケージを各校ごとに作っていくくらいの気持ちで臨む必要があります。

中身について。出願校確定、各校カスタマイズの前に、まず、自分を一言で言うと?のラベリングは受験において必須と思います。アドミッションは「○○の××さん」というふうに記憶していると言われます。クリアなキャリアゴールとWhy MBA?だけでなく、過去の体験から生まれたValueをもっと研ぎ澄まして、それが学校で自分自身Performし、学年全体の雰囲気を盛り上げることをアドミッションに確信させられるように書き上げてください。キャリア上のエクセレンスは誰もが仕上げてくる中、アドミッションが究極的に欲しいのは顔が見えるパーソナリティです。

そしてValueが整理できてきたところで、学校について。いわゆるドリームスクールのようなものは受験の初期から誰でもあると思うのですが、併願校も含め全体として最終的にどういう学校に出願していくかは悩む方もいると思います。個人的には、大きく3つのグルーピングの方向性があると考えていました。
  • Finance系でさらっとしている
  • GM系でチーム重視
  • 専門的な強みを持つ(ヘルスケア・パブリックマネジメントなど)

プログラムやカルチャーに沿って書くと、そのグループ内のほうが量産しやすい(あまり変えずにFitを伝えやすい)というのは真実です。これはまったくの私見ですが、大きくFinance系/GM系とDry/Wetなカルチャーには相関があります(もちろん例外はありますが)。リジッドに数字で投資判断を求められるファイナンス系は必然的に合理的・ドライになりますし、数字だけでない人心掌握を求められるGM系はやはりエモーショナル・ウェットになります。これは、将来自分がCFOを経由してCEOになるのか、それともCOOを経由してCEOを目指すのか、という大きな道筋と整合します。そして、アドミッションは、こいつはどちらのパスに乗っているか、そうしたクラスメイトとフィットするか、と直感的に判断します。誤解を恐れずに書くと、B-schoolを女性との交際・結婚と例えた時に、お金が好きな女性を選ぶか、それとも信頼を求める女性を選ぶか、同時にそうした女性から選ばれるかということだと思います。エッセイをどれだけ取り繕っても、これまでの人生で積み上げた強固なものを変えることはできません。自分の経験に照らしても、どれだけがんばっても一生好きになってもらえないタイプの女性(=学校)は確かに存在します。そうしたことも踏まえ、出願校を確定されるとよいと思います。

更に、例えば自分が次のようなことを訊かれたらどう答えるか考えてみることも、出願校の確定に役立つかもしれません。以下は私の例です。もちろん人によって状況は異なるかと思いますが、そもそも、とか、究極の選択、とかそういうレベルの問いを投げることによって見えてくるものがあるはずです。
  • ヨーロッパおよびアジアでのビジネスを拡大する際に、米国のB-schoolを志望する理由は?INSEADのフォンテンブロー・シンガポールのほうがよいのでは?
  • チームワーク、狭く濃い人間関係、どれくらい好き?ずっと人といると疲れない?
  • 卒業後ソリッドに使えるプラクティカルな知識・意思決定経験と、ヒエラルキーなしのチームでひたすらコミュニケーションを繰り返す経験とで、2年間で究極的にはどちらを得たい?(100対0ということはあり得ないので、51対49でよいが、どちらか)
  • 今のキャリアでシニアプログラムでなく、レギュラーMBAな理由は?
  • 何でもやりたいとは思うけど、2年間は案外短いので、専攻をひとつ決めなけばならないとすると、何?
このあたりを自分の頭の中でとことんまで整理して、(明示的にではないにせよ)エッセイにほのめかすくらいまでできると、かなり光ると思います。インタビューではこれくらいの想定問答準備は必須です(以上は結果的に、ほぼ私がインタビューで尋ねられたことです)。

これが皆さんの出願戦略検討の一助になれば幸いです。どうかがんばってください。