2010-2012年、MIT Sloan MBAプログラムに留学していました。アカデミックな話題から、ボストン生活、趣味まで、日々感じることを書いています。

March 19, 2010

自己紹介としてのWhy MBA?

「なんでMBAなの?」文字と会話では、若干コツが異なるため、今回は会話にフォーカスする。

シーンとしては、卒業生や在校生に話を聞く際の自己紹介として、キャリアデベロップメントと共に伝えることが多いと思う。私の場合は、次のように話していた。

「M&Aを活用した事業拡大を推進する中で、今後は海外企業との資本提携・マネジメントが必須と考えるようになり、それを得る手段としてMBAを目指すことを決意した。具体的には以下の3つ。」
  • クロスボーダーM&A実現のための戦略策定・ファイナンス知識の習得
  • 買収企業に出向し、マネジメントするための経験・能力の向上
  • 保有技術を活かした新規事業開発のための経験・能力の向上
イメージは、キャリアデベロップメントの延長に、そのままWhy MBA?を置くという形である。それに、インターナショナルビジネスの推進、程度の柔らかさでキャリアゴールを加えていた。

会話導入時に、この自己紹介用のWhy MBA?があるとないとでは、その後の会話の質が劇的に変わる。自分は何者か、どこのどいつで、どんなことをやってきて、どんな興味を持っているか。会社名と部署だけでは伝わらないディテールを持ってくることで、聞き手の関心や共通点もわかってくる。MBAでは何が得られるのか、また何は得られないのか、についてもイメージが湧いてくる。これはぜひ早い段階で第1版を作り上げることをお勧めする(完成度は問わない)。むしろ、何度も話すことによって、どこが興味を引いたとか、逆にどこは伝わりにくかったとか、修正ポイントがわかり、次第に洗練されてくる種類のものと位置づけるのがよい。

理屈っぽくならず、直観的に一言でわかってもらえるメッセージを作るためには必須の活動。取って食われるわけではない。怖気づかず、面倒がらずにやる。

March 18, 2010

Why MBA?のつくりかた

「それで、なんでMBAなの」究極の直球、Why MBA?。今回はエッセイ編。

最初は戸惑う。極端な話どうとでも答えられるので、どこに焦点を置いたらよいのかよくわからない。Whyに「~であるから」と理由で答えるとすると、「今の○○に限界を感じているから」でも、「将来○○がしたいから」でもいい気がする。ただ、それらはMBA受験の世界では、それぞれキャリアデベロップメントとキャリアゴールと位置付けられる。狭義のWhy MBA?は、「MBAプログラムで何を得たいか」について書くことになる(広義のWhy MBA?はキャリアゴールまでを含む)。

とはいえどう書けば説得力を持たせられるのかと不安になるが、恐れることは何もない。堅固なキャリアゴールが完成すれば、そのゴールを達成するために必要な具体的スキルが自然と特定できる。この将来のゴールとの関連の強さが、Why MBA?で求められるものの全てである。

ちなみに考えてみれば当然のことだが、キャリアゴールに至るための手段はMBAの他にも無数にある。インターナショナルビジネスがやりたいのならば、自社の海外オフィスに異動してもよいし、外資系企業に転職してもよい。コンサルタントになるための知識を体系化したいのならば、戦略やらマーケティングやら、一式本を読めばいい、ということになる。こうした想定される反論を、一つずつつぶしていくのが、Why MBA?構築のプロセスである。

もちろん現実問題としては、どんなケースでも、MBAが絶対に必要、ということはないだろう。2年間現場から離れる、というデメリットもある。しかし、何かを成し遂げるために、その手段を比較検討した結果、「自分にとって」ベストのオプションであると結論するに至った、という結果とその理由、思考の深さをアドミッションは聞きたがっている。なぜMBA?か、問いと反問の繰り返しは、自分自身が、実はロジカルではないところで、何をMBAに求めているかを再認識するのにも、きっと役立つ。そしてそれは、往々にして理屈を超えたところにあるものであるが故に、突出した強さを持つ(対学校ではロジカルさ、リーズナブルさを求められるので、直接使える機会は少ないかもしれないが)。

繰り返しになるが、Why MBA?は、過去の積上げの延長にあることはもちろんだが、むしろ将来からの逆引きと強く結び付いていることが大切である。明確なキャリアゴールを示し、幾多あるオプションの中で、MBAでなければならない理由は何かについて整理する。そして、○○をやりたいから、○○を学ぶ、を述べていく。その理由が具体的であればあるほど、手触り感を持って必要性が伝わる。

そしてそれに、その学校ならではの要素を入れることが、Why this school?になる。ここは個別リサーチとカスタマイズにより、特に取りたい授業とか、環境とか立地、出会った卒業生・在校生から学んだことを盛り込むといい。一見すると、どこの学校も同じことを言っているように見える。MBAというパッケージを販売しているのだから、当然と言えば当然だ。ただ、本当に大切なことはHPやブローシャーに載っているとは限らない。公知情報を調べ倒した後は、人に会って生の情報を取る。この作業には思いのほか時間がかかるが、その分得られるものも大きい。

しかしながら、学校の独自性が理解できただけでは、他の受験生と何の差異化にもならないことには注意が必要である。例えば、ある学校のコミュニティがどれほどダイバースで、あなたがそれをいかによく知っていても、それは学校がすごいだけであって、あなたを入学させる理由にはなりえない(し、あなたにエッセイで書いてもらわなくとも、学校は自校の強みを知っている)。したがって、学校をリサーチして強み・魅力を見つけたならば、なぜそれが自分にとって意味があるのかを書かねばならない。そうすると、やはり、最も重要なのはキャリアゴールであることがわかるはずだ。キャリアゴールと学校の強みの関連性が伝われば、説得力が大幅に増す。
  • IT企業での事業開発とM&Aの経験から、将来は自社のグローバルビジネスを、クリーンテック分野でM&Aをてこにして推進したい
  • 業務上必要なファイナンス分野では、Sloanは超一流の教授陣が揃っており、事業開発を学ぶためのアントレ・イノベーション分野でも全米屈指
  • 加えて自分の将来の活動フィールドを踏まえた際に、ITとエネルギーを結び付けた研究領域ではMITは随一の存在
  • それらを理論と実践の両輪を回しながら、価値観を共有できる仲間と学べるのは自分にとって理想的な環境である
これは、IT企業でM&Aをやってきた自分だからこそのWhy MBA?およびWhy this school?であり、バックグラウンドが異なる誰かがそのままコピーしようと思っても機能しないステートメントだと思う。また、金融だけなら東海岸のほかのいくつかの学校でもいいだろうが、それにアントレ、IT、エネルギーと加わることで、他の学校ではなくMITだと説得できる強度を持った内容になる。

「なぜ、”あなた”はMBAを目指すのか」、最後は、自分だけにしか答えられない、他の誰とも交換不能な理由になっている、それが完成度の目安。

March 17, 2010

キャリアゴールのつくりかた

「MBA取って何がやりたいの?」これも周囲にMBAを目指しています、と言い始めるとよく聞かれるようになることである。

MBA受験では一般にキャリアゴール、と呼ばれるこの質問、具体的には卒業後、5年後10年後に、どこでどんな仕事をしていると思うか、ということだが、それを突き詰めていくと、つまり自分が将来どうなっていたら幸せなのか、ということに行き着く。

この「幸せ」というのが曲者で、自分だけがよければそれでよいか、というとそうでもない。皆自分は大切だし、でも他人から感謝されるとうれしいし、更に社会で生きるSocial Beingとして果たすべき良心もあるように感じる。そうしたものをすべてひっくるめた時、初めて幸せになると、私は考えている(し、恐らく他の多くの人もそうだろうと思う)。それをクリアにするための作業として、例えば、次の3つが釣り合う地点を探る。
  1. やりたいこと(自分の興味・満足の領域)
  2. できること(過去の蓄積によって得られた能力・技能)
  3. やるべきこと(社会からの要請、翻って社会への貢献・インパクト)

好きなこと、やりたいこと、がはっきりしている人は、1から言語化していけばいいかもしれないが、私の場合は自分で自分のことがよくわからなかった。なので、他人から見て客観的に捉えられる形で示すことができる、比較的主観の入る余地の少ない(すなわち誰からも同じように評価される)2からスタートした。キャリアゴールの前提になる、「キャリアデベロップメント」である。

IT 業界で営業、コンサルティング、M&Aをやってきた。まずはこの9年間を認識し、更に具体的に各業務でどんなことを身につけたのか、その成果と得られたスキルセットを棚卸する。スキルについては比較的簡単に言語化できるので、次にそれを他人に説得力をもって伝えられるように具体的な業務経験を紐づけていく。個別にやってきたことを見る限りでは、他の誰でもない、特筆すべき自分ならではの経験などそうそうあるものではないように感じるかもしれないが、そうした一見ふつうの経験の組み合わせは、必ず人をユニークにする。

ただし、単に「○○をやったから、○○ができます」では、言葉は伝わるものの、聞き手はスキルセットのカタログを見せられているような気になるだけで手触り感がない。だから、それを人に興味をもち、更には共感してもらうには、「何をやったか」だけではなく、「なぜそれをやってきた(選んできた)か」までわかるようにすることが必要になる。

従って、できること(すなわちそれをアチーブメントと呼んでもよい)の特定・それを得た個別経験の紐づけ(これが後にお題別エッセイのネタになっていく)と並行で、キャリアデベロップメント全体を、紙芝居的にシンプルに明快に研ぎ澄ましていく。もちろん単純なステージの切り分け、すなわち「営業→コンサル→M&A」という紙芝居のページはすぐにできるのだが、それを物語にすべく、節目と節目をつなぐための理由を振り返っていく。つまり、絵に合わせて語る部分を作り込むのである。

人はそれぞれの節目において、 何らかの決断(もしくは予期せぬ流れ)によってある場所から別の場所へと移る。就職、部署異動、転職、引越、結婚、その他公私問わず多くの転機が訪れる。それらは皆それぞれがオリジナルな物語であり、2つとして同じものはない。その転機において、一体自分はどんなことを思っていたか。何に衝き動かされ、何を恐れていたか、決断にあたって重視したことは何か。

実際にやってみるとわかるが、難しいのは、自分のこれまでの行動に一貫性を持たせることである。つまり、1つ1つの決断と段階移行については論理をもって説明しやすいのだが、それが連なってみた時には、節目節目でちぐはぐな決断をしてきたように見えてしまうことである(そして事実はそのとおりかもしれない)。しかし、それでは聞き手の共感を得ることはできない。過去の決断の連続を通じて、自分という人間の芯が浮かび上がって見えるか。紙芝居の話で言うと、1枚1 枚の紙芝居を流しで聞いた後で、読後感というか、「要はこれってこういう話」という記憶に残る物語になっているかどうか。これが大事であり、物語全体に筋が通るように、通底するメッセージの構築を意識して、個々のステージでいろいろ感じたことのリストの中から、強調すべき点の取捨選択を繰り返していく。

私は、キャリアデベロップメントの整理のため、まずは「自分が悔しかったこと」を徹底的に振り返った。それによって、自分が大切にしているものが危機に晒された時、やりたいことに対し能力が及んでいないと感じた時、の場面が浮かび上がってきた。技術要素を無視した熾烈な価格競争、政治家やOBの暗躍、新規ジョイント事業の断念、グローバルEコマース案件の失注。その悔しい思いの数々が、私を前へと駆り立て、いくつかの決断を経て今の位置まで運んできた。何よりも誠実さを持って、何度も失敗しながら、新たな価値を生み出すために日々できることをやってきたら、ここにいた。

そして、その後キャリアゴールを考える作業は、「自分がわくわくすること」を掘り下げ、仕事と結び付けた(前述の1に当たる部分)。海外で生活したい、や、グローバル環境にまみれることで外国コンプレックスを焼き尽くしたい、という本音(エッセイには書かない部分)。じゃあ、一言でいえば自社のインターナショナルビジネス推進だ、そのためには、今の業務がM&Aなので、海外の企業を買収してそこに出向してマネジメントすると言えば、合理性と具体性を持たせられるだろうか、という具合である。

それを深め、どこの国で、どんな事業をやるのが有効なのか綿密に調査検討し、実現のための取組みステップを詳細化した。社会IT基盤市場で現在外資に最も寛容なのは欧州で、今後はアジアパシフィックが大きなマーケットになることが分かった。

更にその取組みは金儲けだけでなく、世界にどんなポジティブなインパクトを与えられるのか、社会課題との関連性を考えた(前述の3に当たる部分)。何がグローバル・イシューとなっているかを知り、それが自身のビジネスとどうつながっているかを認識した。環境問題、エネルギー問題がそれぞれグリーンIT・クリーンITというキーワードとして扱われており、それらを深く調査して自分の将来のビジネス案の中に盛り込んだ。

自分という存在は大変な恥ずかしがり屋で、一度本心を聞いたくらいでは到底答などくれはしない。丁寧に、丁寧に、解きほぐしていく。

March 16, 2010

ゲームへの参加資格(その3)

TOEFLのその後。更に英語力、特に耳を維持するためには、Podcastに当たるのが有効だろう。
  • Just Vocabulary(無料):南アフリカに住むヨーロッパ人が第二外国語として英語を勉強しているもの。ちょうど いいレベルだし、楽しい。
  • Business Week(無料):Behind the Cover Storyなど、会話形式になっている。アメリカ人が普通に話しているため、TOEFLの殺菌された英語に慣れた耳には刺激が強い。慣れてくると、やり取りの中での突っ込み方やずらし方、ジョークの入れ方など、アメリカ人の会話方法が掴めてきて参考になる。
  • Wall Street Journal(無料):上記のBusiness Weekと同様、米誌のポッドキャストで時事ネタが多いので単純に流して聞いているだけでもためになる。
  • NPR News(無料):アメリカのノンプロフィット放送局のコンテンツ。内容はビジネスからアカデミックなものまで。ホームページからは数分のリスニング(ちょうどTOEFLと同じくらい)と、その原稿が確認できるため最強のツールではないか。

TOEFLだけでなく、その先のGMAT、エッセイ、インタビューと、以降連なるものへの対策としても大変効果的である。

March 13, 2010

ゲームへの参加資格(その2)

TOEFL受験者にとっての最初のハードルは、画面で英語を読むのに慣れていない、食事なしで長時間の拘束、加えて他の受験生の声が気になる(!)の3つではないだろうか。これは回数をこなすうちに神経が図太くなって慣れてくるので、割り切って臨むしかない。

自分の場合は、約3ヶ月の準備の後、最初に受けた時が80点台後半であった。
  • リーディングは、画面で解くというのに集中できず、時間が足りなかった
  • リスニングは、途中でトイレが我慢できなくなり、1パッセージまるまる逃した
  • スピーキングは、人に聞かれながらマイクに向かってしゃべるのが怖かった(誰も聞いていない)
  • ライティングは、もう英語に疲れて集中力切らしながら書いた

翌月の試験で90点台後半まで向上したものの、100点の壁を超すまでには、そこから実に半年以上かかっている。これからTOEFLに取組まれる方のために、参考までに、私の取組みを紹介したい。

1. 最初の受験まで
各人でどこが弱いかにもよるが、ウォームアップとしては、リーディングとリスニングから取り組むことをお勧めしたい。この2つはインプット系なので、とりあえずとっつきやすいはずだ。そして英語に慣れてきたら次第にアウトプットのスピーキングとライティングを始める(実はその2つの上達に時間がかかるのだが、いずれにせよ地力がないとアウトプットもできない)。

リーディング
トフルゼミナールの市販問題集を使用。量が多い、メソッドが日本人向けなので、比較的アレルギーを感じることなくスタートできる。前から順番に解いていけば次第に力がついてくる。これは大学受験の受験勉強と同じなので、特に迷うこともないだろう。

リスニング
こちらもトフルゼミナールの市販問題集を使用。その後、Compass Publishing社のMastering skill for TOEFL iBT Listening Advancedに移行(日本のものより、本番に近い。新宿高島屋側の紀伊国屋で購入可)。最初は全然理解できなかったが、あまり気にしないでいい。一度解いた後も、何度も何度もiPodで聴き倒す(1問あたりのパッセージが5分くらいという長さに慣れる)。自分の場合は、一度解くことよりも、何度も覚えるまで聞き倒すことが重要であった。あまり深く考えず、毎日通勤時に、辛抱強くiPodを聞いていたところ、ある日突然ブレイクスルーできた。

スピーキング
『基礎からはじめるTOEFLテストワークブック スピーキング編』という市販本が役立った。最初は通しでやってみて、その後はテンプレートを体に染み込ませ、応用が利くようにひたすらシャドーイングする。

ライティング
トフルゼミナールの市販問題集を使用。最初はIndependentからスタートするのがよい。まずは単文から英作文することで、日本語を英語に翻訳する感覚をつける。慣れてきたら、ショック療法的に問題を解き始める。最初は時間制限なしで、どれだけ書けるか試してみる。結果を解答と見比べたり、これを英語で言いたかった、というのを和英辞書を使って調べたりする。数回やってみたら、以降はどれだけ字数が積み上がらなくとも、30分という時間を厳守し、作文を繰り返す。何度も書くうちに、次第に文字数が書けるようになる。ここまで来たら、Integratedも始める。こちらは問題集の最初から順に取組んでいけばよい。

共通
各セクションに通底するトレーニングが、とにかくボキャブラリー。これがスポーツで言うところの体力に当たるため、実は最重要。知らない単語がたくさん出てくる長文では集中力がすぐに途切れてしまうし、リスニングではそもそも知らない単語は聞くことができない。スピーキング・ライティングでも、自分のトータル英単語数の20%程度がアウトプットできる範囲だと言われるので、分母を増やさないことには上達も難しい。そこで具体的には、
・旺文社のTOEFL英単語3800
をひたすら覚えていく。
また、smart. fmというサイトで、ボキャブラリービルディングを毎日1セクション(5~10分程度)でも、例えば朝早めに出勤してやっていくと、単語力(おまけにヘッドフォンをつけるとリスニング力も)が格段に上がる。
http://smart.fm/lists/browse?keyword=toefl

2.  2回目以降
TOEFLは本試験を受けるようになってからがスタートとも言える。決して安いとはいえない受験料なので、一発で目標点が出ればそれに越したことはないが、多くの方は複数回受験することになると思われる。

テストの枠組みも理解し、英語にも徐々に抵抗感がなくなってきているはずなので、もうとにかくETSの問題集をやる。全くのオリジナルのため、(洋書に当たることの抵抗感さえなくなれば)一番役立つ。採点基準を理解すること、問題に慣れること、これがTOEFL攻略に求められるほとんど全てのことである。特にスピーキングとライティングでは、満点の回答と減点されている回答の違いを肌で覚え、ツボを押さえて得点を上げる工夫をすることになる。

不思議と何度受けても同じような点数が出る、自分の英語の実力を正確に測定されてしまうテストと感じる。ある点からは劇的な進歩は難しいが、結局はストレートな語学の試験なので、継続しているとやればやっただけの結果がついてくるはずである。TOEFLは受験回数の制限がないため、最後は各セクションで、自分にとってのベストパフォーマンスが揃うのを待つという、スロットマシンのような感じになるかもしれない。

私も含めた日本育ちの留学志望者にとって、語学はいくらやってもやりすぎということはない。留学後にダイレクトに効いてくるスキルと捉えて地道に取組み、それが良いスコアにつながることをお祈りします。

ゲームへの参加資格(その1)

iBT移行後、日本人にとってハードルが上がったと言われるTOEFL。

要求点を示さない学校も多いものの、100点を明示的に足切りとしている学校がいくつかあり、ビジネススクール受験ではそれが非英語圏の留学生にとっての一応の目安点となっている。もちろん100点に満たずに合格しているケースもあるものの、原則としては、各校そこで始めてゲームへの参加資格が得られると考えるのが安全だろう。更にトップスクールから合格を勝ち取るためには、近年は実質105点が最低ラインとも言われている(なお、HBSは109点を要求)。

100点とかんたんに言うが、日本の英語教育しか受けたことのない人にとっては、この点数を取るのは容易なことではない。リーディングはまだ大学受験で経験があるため、形式に慣れてくれば点数が出るようになるだろうが、リスニング、スピーキング、ライティングの各セクションは、過去の蓄積が少ない分、結果が出るようになるまでにある程度の時間を要する。

ゴールとしては、基本的には各セクション25点で、差し当たっての目標点である100点となる計算。それが難しいと思ったら、セクション間で多少のリバイスをしていくことになる。例えば、次のように設定する。
ベース  補正  補正後
R:25   +3   28
L:25   +2   27
S:25   -5   20
W:25        25

点数が上がっていく過程は、足し算(=1問正答するごとに点が上がる)なので気持ちが乗る。いつからか、それが引き算に変わる瞬間(=この点を取るためには、これだけしか間違えられない)があって、そこからが本当の勝負である。

セクションごとの対策は次回に。

March 12, 2010

見える景色が変わる時

MBA受験において、苦労せずに済むならそれに越したことはないが、これでもかというくらい苦しむ人もいるもの、GMAT。

自分の手応えと、スコアが必ずしも一致せず、しかもやればやるほどスコアが上がるというものでもない。ある意味いい加減な試験である。しかし、これだけははっきり言えるのは、本当は実力がある人が点が出ないことはあっても、その逆はない、ということ。ラッキーショットが極めて効きにくい設計になっている。

問題は、受験中それが一般的な事実としては受け止められるものの、果たして自分はどちらなのか、に確信が持てないことである。すなわち、たまたまスコアが出なかった、のか、実力不足だから出なかったのか、がわからない。自分のことはなかなか客観視できないから、尚更である。

自分自身、なかなかスコアが出なかった。というか、最後まで満足いくスコアは出せなかった。ただ、この試験で付与される3桁の数字の重要性は理解していた。一般にトップスクールに求められる最低目安スコアは、全受験生の上位 10%である680点と聞く。スコアが全てではない、と多くの人が言う。学校の平均点はもちろん、Mid 80%レンジを下回る合格者の話も聞く。そうしたサクセスストーリーは、受験生に希望を与えてくれる。それでもしかし、結果をあくまで客観的に見ると、大部分の日本人合格者は学校の平均点周辺、低くともMid 80%レンジに収まっていることがほとんどだ。

その厳しい現実を前に、私は1回目に出した600点台前半のスコアにいた。勉強すればするほど、受ければ受けるほど本試験のスコアは落ちていった。理解力もテストスキルも上がっているはずなのに、それが結果に反映されないことに、最初は苛立ち、次第に自信を失っていった。低スコアでも合格するという他人のフェアリーテイルに想いを馳せたが、自分に当てはまると心の底では信じられなかった。スコアが出なければ、出るまでやるしかないのだと言い聞かせた。Official Guideを文字どおり丸暗記するまで繰り返し、連日Prepを回した。

4回目のテスト当日、心がけていたことは2つ。
  • 余計なことを考えず、目の前の問題だけに集中すること
  • QuantitativeとVerbalの75分の試験中、それぞれ2回は必ず集中力が切れる。切れた瞬間を自覚し、もう一度入れ直すこと
出題はアダプティブなので、特に簡単な問題が出たりすると、つい直前の問題が合っていたかどうかを気にしてしまう。また同様に、このペースで逃げ切れるだろうか、と先のことを考えてしまう。どちらも目の前の問題の正答率を低めるだけで、何の効用もない。とにかく頭を真っ白にして、画面上の問題だけに集中した。更に、人間の性質上、75分集中力が続くことはあり得ない。そしてそれは、私の場合には難問が出た時に襲ってくる傾向があった。あきらめたくなる気持ち、楽になりたくなる気持ち、その弱さと向き合い、目をつぶり深呼吸してから問題に取り組み直した。全てが終了し、スクリーン上に映された3桁の数字を見ると、過去の自分を越えたことがわかった。

それによって得られた変化はとても大きかった。いわゆるトップスクールから合格を勝ち取る、ということへの現実感と覚悟が増した瞬間であった。テストスコアはあくまで多数の出願者の中で減点されないためのものであって、合格への加点要素にはなり得ない。スタートラインに立つことと、目標を達成することの間には恐ろしく大きな隔たりがあることは承知した上で、それでも一歩前に進めたと感じた。

どんなにスコアが出なくとも、自分を信じてあげられるのは他でもない自分自身しかいない。全力を尽くしているのに、全く結果がついてこない。GMATの袋小路に入ると、既存の問題は全て見尽くし、変な既視感を持ってしか解ける問題がなくなってしまう。敵は出題も採点も得体が知れないブラックボックスであるが故に、余計に恐怖感が増す。時には、もういくらやってもこれ以上は駄目なのではないか、と考えたくなる。でも、それでも、自分の可能性を見限る必要など、どこにもない。自分を信じて、とにかく愚直に取り組めばいい。

GMATと格闘する全ての方が、それを乗り越えられることを、心よりお祈りします。

March 4, 2010

全ての始まり

「なんでMBAなの?」受験を志してから、様々な人から無造作に、幾度となく問われるこの問いに明快に答えることは、とても難しい。

MBA受験のお作法的には、2年間の勉学を通じて学びたいこと、がこれに当たるのだが、ここではその遥か前段にある、そもそものところを考えることの重要性について書いてみたい。いわゆる、建前のWhy MBA?とは全く別の、本音のWhy MBA?である。というのも、自分の本音を知らないと、建前もくそもない。

長い長い受験準備は、正直に言ってとても苦しい。さぼりたくなったり、気持ちが折れそうになることも多い。そんな時、この心の一番根っこにある熱い思いを確認することは、とても大切になる。いつやめてしまってもいいのに、一体何が自分をそこまでMBAに駆り立てているのか、そのエゴや執念、弱さや脆さを丸ごと直視し受け入れること。それはすなわち自分自身をよりよく知ることにつながるはずである。実際に私が出会った卒業生、在校生、受験生の方々も、その多くが、ロジカルに研ぎ澄まされたWhy MBA?の他に、(言語化されているかどうかは別として)実に生々しい「だって行きたい(/行きたかった)んだもん!」のレベルの想いを持っていた。そしてそれは、その方の言動や人となりを通じて、たしかに伝わるのである。

自分のことを思い出すと、ある日友人から届いた「マンハッタンレコード閉店」というメールに対して、「決めた、MBA取る」と返したのがそもそもの始まりだ。なぜそこで急に決断したのか、その時にはたしかに頭でカチッと音がした記憶がある。ただ、これそのままでは、1軒のレコード屋が閉店したからMBA、という意味不明な回答になってしまう。

もちろんその前に考えていたことがある。
  1. 出向先から本社に戻る時期が近づいていたが、そのことに対してリアリティを感じられなかった。将来のキャリアが見通せるが故に魅力を感じられず、むしろ先の見えない世界へ飛びたいと思っていた
  2. 極めてパーソナルではあるが、例えば人生80年と考えた際に、その全てを日本で過ごすのではなく、少しくらいは海外で生活してみたいという思いがあった
  3. そんなことを漠然と感じながらも、目の前の生活に大きな不満があるわけではなく、そこそこ積み重ねたものもある。そんな小さな山にしがみつき、安定を捨てて挑戦する変化に対して躊躇している。何かをやらない言い訳のためにパワーを使っている自分に気付いた。それをどうせなら、何かをやるために使ったほうが生産的だと思い始めていた
レコードを買い漁っていた学生時代には、マンハッタンがつぶれるなんて考えもしなかった。しかし自分はその後就職しマンハッタンでレコードは買わなくなったし、他のいろんな世代の人も何らかの理由で以前よりレコードを買わなくなったのだろう。自分が変わり、またマーケットも変わったと気付かされた。少し大きく捉えると、レコード輸入販売(実店舗型)という業態が、eコマースが発達した日本市場ではもはやその役割を終えつつあるということだ。そこから、自分が好むと好まざるとに関わらず、世界は変化する。 その中で自分が変わらないことは、それ自体がリスクとなり得る。そんなことを思った。同時に、今の自分を眺めると、あの時からずいぶん遠くに来たのだな、とも感じた。

そしてマンハッタンレコード、という名称が自分にアメリカ、NYCの映像を想起させた。メールを眺めていると、マンハッタン閉店というニュースは、なんだか他人事ではない気がしてきた。いつか自分にも閉店が訪れる、それもある日突然。恐ろしくなった。そうしたら、自分の人生において手遅れにならないうちに、海外で生活したいという想いの針が振り切れた。将来のプロフェッショナル・パーソナルな生活双方の充実、そしてそのために挑戦する毎日の開始、どう生きようと同じ人生、どうせなら全力でやっちゃったほうがいいじゃないか。漠然と考えていたMBAというアルファベット3文字が、ぴったりとジグソーパズルに収まった瞬間だった。

お作法としてのWhy MBA?やCareer Goalをつくるのは最後でいい。その前にやるべきことは、自分の本音を知ること、そしてそれを可能な限り言語化することである。それは必ずや、自分が前に進むための力をくれる。