2010-2012年、MIT Sloan MBAプログラムに留学していました。アカデミックな話題から、ボストン生活、趣味まで、日々感じることを書いています。

July 9, 2011

つくられる限界

ひとつめのインターンをNYでやっているのですが、それが早くも終わろうとしています。そこでふと考えたこと、限界について。

よく言われる心理的壁。陸上競技を例に取ると、100m走でも1マイル走でも、なかなか破れない世界記録があって、それがひとたび更新されると続々と新記録が生まれる。また、日本人のメジャーリーグ挑戦も、野茂が道を拓いて以降、現在では多くの選手が活躍できるようになった。

それを自分にも当てはめてみる。すると、日々いかに多くのことから逃げていることか。Get out of comfort zoneであるべき2年間なのに、これはアメリカ人じゃないと難しい、とか、帰国子女ならできただろうに、とか、勝手に限界を設定していることが多いことに気づく。ビジネスアイディアのブレインストーミングをする「アイディアストーム」という集まりには興味があったものの、結局フルスピードのコミュニケーション能力に自信が持てず参加しなかった。今年のSloan合格者の歓迎パーティのアンバサダーや、新1年生の世話役となるパイロットというポジション、授業の手伝いをして給料が支払われるティーチングアシスタントもやりたいなと思ったが、やはりコミュニケーションへの懸念から見送った。米国でのインターンもそのひとつで、なかなか厳しいのではないか、と勝手に限界を作っていたところがある。実際に就職活動をして、もちろんそんなにかんたんなものじゃなかったし、冷や汗をかき散々な思いもたくさんしたけれど、それでも命を取られるわけではなかったし(当たり前だが)、最終的にはポジションも得た。

友人のアドバイスを思い出す。表面張力の話。常にグラスからこぼれそうなくらい水を張っていると、いつかグラスそのものが大きくなる。自分の経験からも、ガラス製の器が大きくなる、というのは言いえて妙で、よもや伸縮しないだろう、と思われるもののサイズが本当に変わる。そしてそれを成し遂げるためには、思いと忍耐がなければ続けられないので大変だけど。

先日MITの研究者と、ストレッチの方法について話をする機会があった。ストレッチには2種類のアプローチがある、と仮定して、どちらをより多く採ってきたかを振り返るというもの。

ひとつめは、少しだけ背伸び、を繰り返すやり方。無理やり自分を快適でない環境に置き、そこで慣れさせることでなんとか及第点を取ろうと努力する力で成長を図る。自分の中では、マラソントレーニング手法と名づけている。昔長距離走の選手に、マラソンの練習方法を尋ねたところ、毎回の練習で、常に「いや、これだとちょっときついな」というスピードで走れ、そうすると一番早道でスピードとスタミナがつく、とアドバイスを受けた。これは別に忍者が木を植えて成長に合わせて高飛びの高さを上げていく、でも何でもよいのだが、要は常に落ち着かない状況を作り出す、ということ。この1年では、とにかくバーに通い続けたことくらいしか背伸びはしてないなと反省しつつ、ちょっとだけ耐性はついた気もする。

もうひとつは、超身分不相応の環境に入り、赤点を取り圧倒的にできないことで落ち込みながら、それを挽回しようとする力で成長を図るやり方。これは自らの意思というよりは、どちらかというと、放り込まれることのほうが多いかもしれない。自分にとってはMBA受験の最初のインタビュートレーニングは、ほとんど丸腰で行ったのでこてんぱんだった記憶が鮮明に残っている。こちらでの授業でも、コミュニケーションのクラスでいきなり当てられてみんなの前で即興スピーチをやらされたり、プロジェクトで電話インタビューや突撃訪問をやる羽目になったり。まあ、相当できなくて強烈に落ち込んで。そもそも身の程を思い知らされることで、ある程度できると思い込んでいた自分の意識過剰が恥ずかしくなる。できないのが実力相応、落ち込むことすらおこがましい。せいぜい客観的に自分を見て努力しなさい、ということで必死でしがみつく。しかし不思議なもので、つい最近はあんなにつらかったアメリカ人へのインタビュー、(もちろんストレスフルだけど)いつのまにかできるようになっている。電話インタビューもかなり気が向かないけど、でも必要があればやるようになった。ちなみに先週はNYでインターン中の仲間でピクニックをして、Tabooゲームというのをやった。ある単語をいくつかのNGワードを避けて表現する、というもので、まったくできなかった。コミュニケーションの壁は高い。

ともあれ、ストレッチをかけるという意味では、MBAの2年間はとてもよいチャンスだと思う。所詮は学校、失敗したからといって失うものは何もないのだ。ビジネスのように、取り返しのつかない損失が発生するわけではないから、そして基本的には他の人に迷惑をかけるわけではないから、思い切ってどんどんやればいい。クラスの友人(アメリカ人)は、人前で話すのが緊張すると言い、緊張がどもりに出るのだが、それを直したいからとどんどん話す。ある日、ジャック・ウェルチが学校で講演した際にも、彼は数百人の聴衆の前で質問した。その質問はウェルチの心に引っかかり、後日ウェルチがテレビに出演した時に言及した。友人はそのことをとても喜んでいた。一つ一つの具体的な行動が、自信に繋がっていく。学ばされることが多い。

MBAも折り返し地点、今度は環境に頼るのではなく、自分でストレッチをかけていかなければならない。こちらでの生活も、地に足が着いてきた。やはりばたばたしているうちは、学びは多いながらもできることは限られる。ようやく物がよく見えるようになってきて、だからこそできることもある。慣れてからが本番。今度はどんな挑戦をしよう。あまり他の人がやっていないことがいい。とはいえあまり構えすぎず、とりあえずアイディアストームくらいは参加しようと思う。

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