2010-2012年、MIT Sloan MBAプログラムに留学していました。アカデミックな話題から、ボストン生活、趣味まで、日々感じることを書いています。

March 17, 2010

キャリアゴールのつくりかた

「MBA取って何がやりたいの?」これも周囲にMBAを目指しています、と言い始めるとよく聞かれるようになることである。

MBA受験では一般にキャリアゴール、と呼ばれるこの質問、具体的には卒業後、5年後10年後に、どこでどんな仕事をしていると思うか、ということだが、それを突き詰めていくと、つまり自分が将来どうなっていたら幸せなのか、ということに行き着く。

この「幸せ」というのが曲者で、自分だけがよければそれでよいか、というとそうでもない。皆自分は大切だし、でも他人から感謝されるとうれしいし、更に社会で生きるSocial Beingとして果たすべき良心もあるように感じる。そうしたものをすべてひっくるめた時、初めて幸せになると、私は考えている(し、恐らく他の多くの人もそうだろうと思う)。それをクリアにするための作業として、例えば、次の3つが釣り合う地点を探る。
  1. やりたいこと(自分の興味・満足の領域)
  2. できること(過去の蓄積によって得られた能力・技能)
  3. やるべきこと(社会からの要請、翻って社会への貢献・インパクト)

好きなこと、やりたいこと、がはっきりしている人は、1から言語化していけばいいかもしれないが、私の場合は自分で自分のことがよくわからなかった。なので、他人から見て客観的に捉えられる形で示すことができる、比較的主観の入る余地の少ない(すなわち誰からも同じように評価される)2からスタートした。キャリアゴールの前提になる、「キャリアデベロップメント」である。

IT 業界で営業、コンサルティング、M&Aをやってきた。まずはこの9年間を認識し、更に具体的に各業務でどんなことを身につけたのか、その成果と得られたスキルセットを棚卸する。スキルについては比較的簡単に言語化できるので、次にそれを他人に説得力をもって伝えられるように具体的な業務経験を紐づけていく。個別にやってきたことを見る限りでは、他の誰でもない、特筆すべき自分ならではの経験などそうそうあるものではないように感じるかもしれないが、そうした一見ふつうの経験の組み合わせは、必ず人をユニークにする。

ただし、単に「○○をやったから、○○ができます」では、言葉は伝わるものの、聞き手はスキルセットのカタログを見せられているような気になるだけで手触り感がない。だから、それを人に興味をもち、更には共感してもらうには、「何をやったか」だけではなく、「なぜそれをやってきた(選んできた)か」までわかるようにすることが必要になる。

従って、できること(すなわちそれをアチーブメントと呼んでもよい)の特定・それを得た個別経験の紐づけ(これが後にお題別エッセイのネタになっていく)と並行で、キャリアデベロップメント全体を、紙芝居的にシンプルに明快に研ぎ澄ましていく。もちろん単純なステージの切り分け、すなわち「営業→コンサル→M&A」という紙芝居のページはすぐにできるのだが、それを物語にすべく、節目と節目をつなぐための理由を振り返っていく。つまり、絵に合わせて語る部分を作り込むのである。

人はそれぞれの節目において、 何らかの決断(もしくは予期せぬ流れ)によってある場所から別の場所へと移る。就職、部署異動、転職、引越、結婚、その他公私問わず多くの転機が訪れる。それらは皆それぞれがオリジナルな物語であり、2つとして同じものはない。その転機において、一体自分はどんなことを思っていたか。何に衝き動かされ、何を恐れていたか、決断にあたって重視したことは何か。

実際にやってみるとわかるが、難しいのは、自分のこれまでの行動に一貫性を持たせることである。つまり、1つ1つの決断と段階移行については論理をもって説明しやすいのだが、それが連なってみた時には、節目節目でちぐはぐな決断をしてきたように見えてしまうことである(そして事実はそのとおりかもしれない)。しかし、それでは聞き手の共感を得ることはできない。過去の決断の連続を通じて、自分という人間の芯が浮かび上がって見えるか。紙芝居の話で言うと、1枚1 枚の紙芝居を流しで聞いた後で、読後感というか、「要はこれってこういう話」という記憶に残る物語になっているかどうか。これが大事であり、物語全体に筋が通るように、通底するメッセージの構築を意識して、個々のステージでいろいろ感じたことのリストの中から、強調すべき点の取捨選択を繰り返していく。

私は、キャリアデベロップメントの整理のため、まずは「自分が悔しかったこと」を徹底的に振り返った。それによって、自分が大切にしているものが危機に晒された時、やりたいことに対し能力が及んでいないと感じた時、の場面が浮かび上がってきた。技術要素を無視した熾烈な価格競争、政治家やOBの暗躍、新規ジョイント事業の断念、グローバルEコマース案件の失注。その悔しい思いの数々が、私を前へと駆り立て、いくつかの決断を経て今の位置まで運んできた。何よりも誠実さを持って、何度も失敗しながら、新たな価値を生み出すために日々できることをやってきたら、ここにいた。

そして、その後キャリアゴールを考える作業は、「自分がわくわくすること」を掘り下げ、仕事と結び付けた(前述の1に当たる部分)。海外で生活したい、や、グローバル環境にまみれることで外国コンプレックスを焼き尽くしたい、という本音(エッセイには書かない部分)。じゃあ、一言でいえば自社のインターナショナルビジネス推進だ、そのためには、今の業務がM&Aなので、海外の企業を買収してそこに出向してマネジメントすると言えば、合理性と具体性を持たせられるだろうか、という具合である。

それを深め、どこの国で、どんな事業をやるのが有効なのか綿密に調査検討し、実現のための取組みステップを詳細化した。社会IT基盤市場で現在外資に最も寛容なのは欧州で、今後はアジアパシフィックが大きなマーケットになることが分かった。

更にその取組みは金儲けだけでなく、世界にどんなポジティブなインパクトを与えられるのか、社会課題との関連性を考えた(前述の3に当たる部分)。何がグローバル・イシューとなっているかを知り、それが自身のビジネスとどうつながっているかを認識した。環境問題、エネルギー問題がそれぞれグリーンIT・クリーンITというキーワードとして扱われており、それらを深く調査して自分の将来のビジネス案の中に盛り込んだ。

自分という存在は大変な恥ずかしがり屋で、一度本心を聞いたくらいでは到底答などくれはしない。丁寧に、丁寧に、解きほぐしていく。

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